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東京地方裁判所 昭和49年(ワ)4580号 判決 1975年1月22日

原告 早川信三

被告 国

代理人 武田正彦 ほか二名

主文

一  被告は原告に対し、別紙物件目録記載の土地建物について、昭和二八年八月三一日時効取得を原因とする所有権移転登記手続をせよ。

二  訴訟費用は被告の負担とする。

事実

一  当事者の求めた裁判

1  請求の趣旨

主文と同旨

2  請求の趣旨に対する答弁

(一)  原告の請求を棄却する。

(二)  訴訟費用は原告の負担とする。

二  当事者の主張

1  請求原因

(一)  原告は、別紙物件目録記載の土地上にある同目録記載の建物に、昭和二八年八月三一日から居住し、同日以降右土地および建物(以下「本件土地建物」という。)を占有している。

したがつて昭和四八年八月三一日の経過により、本件土地建物について二〇年の取得時効が完成し、本件土地建物は原告の所有に帰した。

(二)  被告(所轄、大蔵省)は本件土地建物について、昭和二二年一一月二九日、所有権移転登記を経由している。

(三)  よつて原告は被告に対し、本件土地建物について、時効取得を原因とする所有権移転登記手続を求める。

2  請求原因に対する認否

請求原因(一)の事実は知らない。(二)の事実は認める。

3  抗弁

原告は、被告から本件土地建物の売払を受けた訴外小泉善一郎からこれを買受けて本件土地建物の所有権を取得した。このような場合にまで原告の時効取得を認め、それに基づく登記請求権が発生することになれば、中間者たる小泉善一郎の利益を害するおそれがある。したがつて、原告の時効取得を原因とする登記請求権は否定されるべきである。

4  抗弁に対する認否

原告は、訴外佐藤福松から本件土地建物を買受けたものである。被告の法律上の主張は争う。

三  証拠<略>

理由

一  本件土地建物について、原告主張の登記がなされていることについては、当事者間に争いがない。

二  <証拠略>によれば、原告は昭和二八年八月三一日、盛岡市下台七一番地より本件土地上にある本件建物に転居し、その後引続き今日迄、同所に居住して本件土地建物を占有していることが認められる。右認定に反する証拠はない。

そうすると、原告は、同日以降、所有の意思をもつて、平隠、かつ、公然に本件土地建物を占有したものと推定され、右推定を覆す抗弁事実の主張立証はないから、同日から二〇年を経過する昭和四八年八月三一日の満了とともに原告の本件土地建物に対する取得時効が完成し、原告は昭和二八年八月三一日に遡つてその所有権を取得したものといわねばならない。

三  抗弁について

不動産の登記簿上の所有者と、その時効取得を主張する者との間に、その不動産を前者から買受けて後者に売渡した中間者があるというだけでは、その不動産を永続して占有するという事実状態を権利関係に高めようとする民法一六二条の適用を拒むに足りる理由があるとは考えられない(なお、最高裁昭和四四年一二月一八日判決、民集二三巻一二号二四六七頁参照)。そして、不動産を時効取得した者は、直接、登記簿上の所有者に対し、所有権移転登記の登記請求権を取得するのであるから、いわゆる中間省略登記の問題を生ずる余地もない。以上と異つた見解にたつ被告の主張は採用できない。抗弁は主張自体において失当である。

四  以上によれば、原告の本訴請求は理由があるからこれを認容し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 平田浩 比嘉正幸 鈴木健太)

別紙物件目録<略>

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